危ぶまれる留学生の未来と、HBSの今後の方針

昨日、アメリカの移民・関税執行局(Immigration and Customs Enforcement: ICE)が驚きのガイドラインを発表しました。

新学期の授業が全てオンラインで実施される学校の留学生は、アメリカに滞在してはならない」とのこと…!




コロナの影響で当面は全てオンラインで授業を行う予定の学校はアメリカに数多くありますが、そのような学校に進学予定だった米国国籍を持たない新入生は自国から離れられないだけでなく、既に在学しておりアメリカに滞在中の留学生も速やかに国外に出なければならない、ということです。



移民・関税執行局のアナウンスとほぼ同じタイミングで、トランプ大統領も「SCHOOLS MUST OPEN IN THE FALL!!!」とツイートし、今日の会見では「経済活動や生徒のメンタルヘルスの観点からも、学校が通常運行に戻る必要がある」「各州で学校が再開するように、州政府にもプレッシャーをかける」と発言しました。
トランプ大統領が学校を「通常」の状態に戻し、一刻も早く経済活動を再開するよう躍起になっていることが、今回の政策に繋がったのかもしれません。

突然の発表に、アメリカの多くの学校や留学生に衝撃が走っています。
ハーバードビジネススクールはオンライン授業と対面授業を組み合わせる「ハイブリッド型」を採用する予定なので、この政策の影響を受けないはずですが、全てオンラインで授業を実施予定の学校では、どのような影響が予想されるのでしょうか。
  • もはや「留学」ではない:授業がオンラインだとしてもアメリカ国内に残れるのであれば、まだ異国での生活を経験できますが、国外に出なければならないとなると、ほぼ全ての留学生が母国に帰らざるを得なくなります。
    自分の生まれ育った国で、アメリカの学校の授業をリモートで受けるということは、もはや「留学」とは到底言えない体験です。特に人生で初めて留学して異文化を肌で感じようとしていた人にとっては、進学することの価値がほぼ奪われてしまったのではないでしょうか。
  • 卒業後にアメリカで働く機会が無くなる:F-1ビザという学生ビザを持つ留学生がアメリカの大学や大学院を卒業すると、Optional Practical Training (OPT)と呼ばれる企業研修の権利が与えられます。通常は自分が専攻した分野と関連のある職種で1年程度働けるのですが、更に長期的にアメリカに残りたいと考えている留学生は、OPTの期間中にH1-Bビザという特殊技能職ビザを申請したり、グリーンカードと呼ばれる永住権を申請したりすることがあります。しかし、授業が全てオンラインで行われるとなると、F-1ビザがはく奪され、OPTの権利も奪われる訳です。アメリカで働くことを夢見ていた留学生にとっては、このOPTがアメリカンドリームをつかみ取るための第一歩でもあったため、かなりがっかりしているはずです。
  • 留学生の数が減少する:上記のような悪影響がある中で、留学のメリットを感じられなくなってしまった生徒は、留学を諦める/延期するという決断をすることが予想されます。また、授業が全てオンラインで実施予定の学校に既に在学している留学生は、対面でも授業を実施する学校に転校する、という動きもあるかと思います。
    つまり、フルオンライン授業の学校における留学生が激減するかもしれません。アメリカの学校では生徒同士が議論をして授業を進めることが多く、多様なバックグラウンドを持つ生徒が意見を交わすことでお互いから学び合うスタイルであるため、留学生が減少すると学びの質も低下する恐れがあります。

各学校がコロナ対策を必死に練っていた中で突然このような発表があり、どの学校も非常に混乱しています。
実はハーバードでは、HBS以外の全ての大学院と学部は2020-2021年の授業を全てオンラインで実施する予定であるため、直にこの政策の影響を受けます

早速ハーバードの学長が、今回の政策を非難する声明を出しています。


<ハーバードビジネススクールの方針>
今日の午後、HBSでは新学期の方針に関する説明会がオンラインで実施されました。この説明会は、ずいぶん前から予定されていたので、今回の政策を受けて開催したものではありませんでしたが、学校側も「対面とオンラインを組み合わせたハイブリット型を採用するので、HBSの留学生は影響を受けないはず」という見解でした。

その他、今回の説明会では以下のようなポイントが話されました。
  • 3分の1がハイブリット型、3分の2がZoom授業:可能な限り対面の授業を実施したいが、生徒全員が教室に入るのはソーシャルディスタンスの観点から不可能。
    また、教授の中には持病を持っていたり高齢であるためコロナに感染するとリスクが高いため対面での授業は控えたいと考えている方も多い。
    そのため、3分の2の授業はZoomのみで行われ、残りの3分の1の授業では20名程度の生徒が教室から参加、その他50名程度の生徒はZoomから同じ授業に参加するという「ハイブリッド型」を採用する予定。
  • ほとんどの新2年生はそのまま進学し、ボストンから授業を受ける予定:今年の秋から2年生になる予定のHBSの生徒に実施したアンケートの結果によると、73%の生徒がそのまま進学予定、12%の生徒は1学期だけ休学を検討中、3%の生徒は1年間の休学を検討中、12%の生徒はまだ決めかねている、とのこと。
    また、そのまま進学を予定している生徒のうち88%はボストンに滞在予定(45% on-campus、43% off-campus)、8%はアメリカ国内の別の都市、4%はアメリカ国外からの授業に参加する見込みとのことです。
  • 消毒のために休み時間が40分に:教室とZoomを組み合わせるハイブリット型の授業では、教室を使用後、次の授業までに消毒を行う必要があります。そのため、授業と授業の間の休み時間は、これまでは20分でしたが、来学期からは2倍の40分に拡張されます。
  • 旧セクションの仲間との選択授業:HBSでの1年目はセクションと呼ばれる約90名の仲間と毎日授業を受けますが、2年目は自分の興味のある授業を自由に選択するため、自分のセクション以外の人と授業を受けることになります。
    しかし今年はコロナの影響で3月後半から全ての授業がオンラインに移行し、1年目のセクションメイトとの時間が奪われてしまったこと、そして、2年目もオンラインの授業が続きセクションとの繋がりが感じにくくなってしまうことを考慮し、2年生になっても旧セクションの仲間と共に受けられる新たな選択授業が導入されるそうです。
    授業名はConversations on Leadershipと題され、HBSの著名な卒業生を招いて彼らとリーダーシップ(?)に関して議論をする授業になるみたいです。まだ授業の具体的な内容はアナウンスされていないので何とも言えませんが、招待する卒業生は生徒が投票して決められるそうなので、面白い議論になるかもしれません。
    この新しい授業は、生徒の「セクションとの繋がりを保ちたい」という声をHBSが取り入れて実現した取り組みです。
    先の見えない状況ではありますが、そんな中でも柔軟に対応して、少しでも良い環境を生徒に提供しようと努力を惜しまないHBSの対応はありがたいです。

アメリカでは未だにコロナの感染が驚くべきスピードで増え続けていたり、今回のような突然の政策の変更があったりして、新学期が始まる頃にはまた全然違う世界になっているかもしれません。
学校も生徒も、機敏に、柔軟に対応することがこれまで以上に求められています。また何か状況が変化すればアップデートします!

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