HBS卒業生のリーダーシップ論からの学び
2年生の秋学期も終わり、卒業まで残すところあと1学期となりました。
HBSでは今学期、各生徒が週に2~3回のPCR検査を受け、新型コロナ感染状況が注意深くモニタリングされてきました。
それでも11月後半からHBSコミュニティ内で感染者数が増加したため、学期の最後の数週間は対面式の授業が廃止になり、全ての授業がZoomに移行してしまいました。
一方でアメリカでは既に新型コロナのワクチン接種が始まったという明るいニュースもあるので、早期の鎮静化を願うばかりです。
・生徒同士が対面で交流をして、親睦を深めるチャンスは十分にあるのか
・来年5月末の卒業式は対面で開催できるのか
・企業の採用活動が再開し、無事にHBS後の就職先が見つかるのか
卒業を半年後に控えた2年生は色々な不安を抱えていますが、米国新政権がコロナウイルス収束に良い影響をもたらしてくれることを願い、2021年に期待したいと思います。
<Conversations on Leadership>
今学期は自分の興味に応じて、ファイナンスやアントレ系の授業などを幅広く受講しましたが、今回はConversations on Leadership(COL)という授業について振り返ってみたいと思います。
COLは、著名なHBS卒業生を招き、リーダーとしての視点、選択、価値観、葛藤などを議論をする授業で、今年から導入された新しい授業です。
生徒による投票でスピーカーが選出され、以下12名の錚々たるHBS卒業生の話が聞けました。
- Sheryl Sandberg (Facebook - COO)
- Steve Schwarzman (Blackstone - Chairman, CEO and Founder)
- Jamie Dimon (JP Morgan - Chairman and CEO)
- Mitt Romney (Senator, Former Republican Presidential Nominee, Bain Capital - Founder)
- Kyriakos Mitsotakis (Prime Minister of Greece)
- Mark Tatum (National Basketball Association - Deputy Commissioner and COO)
- Meg Whitman (HP - former CEO, Ebay - former CEO, Quibi - former CEO)
- Maya Chorengel (TPG Rise - Co-managing Partner)
- John Foley (Peloton - Founder and CEO)
- Anthony Tan (Grab- Co-Founder and CEO)
- Tunde Kehinde (Jumia "Amazon of Africa" - Founder)
- Katrina Lake (Stitch Fix - Founder and CEO)
授業名に「Conversation」とあるように、台本無しで肩ひじ張らない会話形式だったため、テレビや雑誌のインタビューでは聞けないような、際どい質問もあり興味深かったです。
オフレコのため詳細は書けませんが、「際どい」会話の中には以下のような内容もありました。
- Facebook COOのシェリル・サンドバーグ氏:Facebookが2016年の米国大統領選に与えた影響やその責任をどう考えているのか? 2020年の大統領選に向けて、どのような対策を講じるつもりか?
- JP Morgan CEOのジェイミー・ダイモン氏:2008年の金融危機に責任を感じているか? 今でも後悔している意思決定はあるか?
- 2012年の共和党 大統領候補のミット・ロムニー氏:Flip flopper(考えをコロコロ変える人)であるという批判があるが、リーダーが頻繁に意見/スタンスを変えることについてどう考えているのか? トランプ政権の要職を任されることになったら引き受けるか?
多様なリーダーシップ論を12名から直接聞けたことも貴重な体験でしたが、卒業生との各セッションの後に旧セクションの仲間とその内容について議論をしたことも良い学びになりました。
特に面白かったのが、各HBS卒業生の人柄やリーダーシップ論に対して、生徒一人ひとりが驚くほど異なる意見を持っていた点です。
一見「強み」として捉えられる特性も、生徒によってはそれを「弱み」として見ていたことが印象的でした。
チャーム(魅力)
+ 2012年の共和党 大統領候補のミット・ロムニー氏は、とてもチャーミングで好感が持て、話に引き込まれる。気さくな人柄なため、周りを安心させる
- 人を惹きつける人柄を武器にすることで政策の「本質」から注意を逸らし、人を思い通りに動かしていて危険だ
価値観/信念の追求
+ Grab (東南アジア版Uber)の創業者のアンソニー・タン氏は、キリスト教の教えの下、強い使命感を持ちながら組織を引っ張っていることを明言しているため、透明性・信頼感があり、且つ、周りをインスパイアしている
- 特定の信念を声高に唱えると、異なる価値観を持つ人を疎外してしまう恐れがある。また組織を、個人の「美徳シグナリング」(自分が"正しい行為"にコミットしていることをアピールすること)のツールとして利用しているようにも見える
雄弁さ
+ HPやeBayなどのCEOを務めたメグ・ホイットマン氏は話が非常に上手く、どんな質問に対しても理路整然と自信を持って答えていて、頼りがいがある
- よどみなく台本に書かれたような受け答えをしているため、本心で語っているように聞こえない。カリフォルニア州知事選にも出馬したこともり、大衆受けする演説をすることは慣れていて、Politically Correct(政治的・道徳的に正しい)な事しか言っていない
親しみやすさ
+ Stitch Fix社(アパレル企業)を創設し、米国市場において最年少でIPOを果たした女性経営者のカトリーナ・レイク氏は、カジュアルで相手を緊張させない親しみやすい雰囲気を持っているため、協力的なカルチャーを醸成するようなリーダーシップを持っている
- コミュニケーションがカジュアルすぎて威厳が無いため社員が不安を感じてしまったり、だらついてしまう恐れがある。ピリッとした空気で緊張感を保つこともリーダーとして重要
打たれ強さ
+ JPモルガン・チェースのCEO ジェイミー・ダイモン氏は、金融危機後に世間からの批判を浴びながらも難局を乗り越え、2018年、2019年と2年連続で米銀史上最高益を更新する力強いリーダーシップを発揮した
- 金融機関に対する米国政府の救済措置や規制強化を酷評しており、「反省」や「学び」の姿勢が見られない。金融危機以来、大手金融機関は世間からの風当たりが非常に強く、厳しい批判に対して感覚が麻痺してしまっている
などなど…。
HBSの生徒は目が肥えているので、自分のことは棚に上げて卒業生を時に痛烈に批評していました笑
これらの議論を通じての学びは「万人受けするリーダーシップのスタイルは存在しない」ということ。
当たり前なのかもしれませんが、12名のリーダーシップ論を聞き、その後にセクションメイトと議論することで、それがより鮮明になりました。
これだけ活躍している卒業生のリーダーシップ論ですら、周りの受けとめ方がバラバラなのであれば、誰からも受け入れられるリーダーなど存在し得ない。
むしろ、万人受けを狙うと何も「尖り」の無いリーダーになってしまうので、自分に合ったリーダーシップの発揮の仕方を見つけて伸ばすことが重要なのだなあと感じました。
学期の最後には生徒一人ひとりがPersonal Leadership Philosophyという「自分なりのリーダーシップ論」をWord 1~2枚で書き上げました。
この中には、「自分にとってリーダーシップの定義は何か」、「周りをどのようにリードしていくのか」、「どのように『成功』を定義するか」、「社会に対しどう貢献していくか」などなど、周りをリードしていく上で自分が重要だと感じることを自由に書き留めました。
今後、自分が目指すべきリーダー像をPersonal Leadership Philosophyに言語化できたことも、この授業から得られた大きな財産です。
定期的に読み返したりアップデートしたりして、自分のリーダーシップのスタイルを振り返ってみたいと思います。
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